東京大学名誉教授で医学博士の養老孟司さん。著書『バカの壁』は450万部を超えるベストセラーに。今年で86歳、これまでを振り返り「人生は、なるようになる」との結論にたどり着いたといいます。新型コロナウイルスの蔓延やウクライナ戦争など、日常生活の壊れやすさを目の当たりにする中で、養老さんが感じることとは――。
生き生きとしていた社会
まあ、よく生きてるなあ、と思います。この間も友達の葬式があってね、自分もこの先いつコロッと死んでもおかしくない。そう考えると、「もし今日やらなきゃ一生やらないな」っていうことはたくさん出てきて、かえって生きるって何だろうと随分、考えるようになった。
そんな折に起きた新型コロナウイルスの蔓延では、死者数など死のほうがクローズアップされてしまったから、生きることが制限され、外出自粛、営業規制が行われた。死を想うと生を考えるけれど、あんまり死を重要視すると、生きることが縮小しちゃう。
それを思うと、昔は、今より衛生面などでは乱暴だったけれど、今より社会が生き生きとしていて、良かったかな。
老いについてですか。別にめでたくもないけどね、歳を取るのも悪くない……、80を過ぎてからますますそう思っています。
テレビの番組なんかで若い人があれこれ悩んでいるのを見ても、ああ、よかった、こっちは、もうああいう青春の悩みはないよ、と思う。外国のドラマで男女関係がもつれ、ああだこうだというのを見ても、「やめときゃいいのに」と思っている。ああいうのは、たいてい面倒くさいでしょう。
――ああ、俺は関係ない。ああよかったと思う(笑)。