大阪にある大学病院

時が止まったようでした。考えることができず、動くこともできません。心臓はドクドクと鳴り続けています。

「とにかく……」

真之(慎太郎の父)の番号を押しました。飛行機を手配しなければ……真子(慎太郎の姉)にも連絡しなければ……。

「お父さん。今すぐ帰ってきて……」

前年の夏頃から慎太郎の原因不明の頭痛は次第に激しくなり、夜も眠れないほどになり、暮れ頃から目にも異常が見られるようになっていました。

『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(著:中井由梨子/幻冬舎)

視界に黒いラインが入る、ボールが二重に見えるといった症状で、キャンプ中もミスを繰り返し、様子がおかしいと悟ったコーチが練習を中断させて病院に行かせたそうです。

事情を知って飛んで帰ってきた夫と共に、その日のうちに飛行機に乗り、大阪へ向かいました。慎太郎と顔を合わせたのは、大阪にある大学病院の待合室でした。

キャンプを離脱し、大阪に戻って再度、精密検査を受けたとのことです。

病院の大きな自動ドアを抜けると慎太郎の担当スカウトだった田中秀太さんが待っていてくださり、私たちに駆け寄ってきました。

「どうぞ、こっちです」

秀太さんは泣き出すのをこらえるかのような表情で、急ぎ足で案内してくださいました。診察室の前のソファに座っている慎太郎は、じっと目を閉じていました。