Sの異常な執着
Sが何の目論見も持たない人間であったことが、事態をより一層悪化させた。何らかの商品を売りつけようとしたり、勧誘行為があったなら、私はそこで彼に対して疑いを持つことができただろう。だが、彼はそのような行動や言動を一切見せず、「私の記憶の書き換え」のみに異常な執着を示した。理由は、今でもわからない。
出会い系で知り合い、会って間もない女の過去のトラウマになぜそこまで関心を示すのか。彼が私に抱く興味は、単に「心理学を学んでいるから」という理由だけで括れるような代物ではなかった。
同年代の異性とラブホテルに入り、そこで行う行為のすべてが“再演”のみで完結する。口直し的に愛のあるセックスを求めてくるでもなく、恋人同士のスキンシップがあるわけでもない。
ホテルの部屋を出る時、彼はいつも「お疲れさま」と言った。彼にとって、私への“治療行為”は仕事であるようだった。そして、私は一種のモルモットだったのだろう。彼は私の痛みにも心にも関心がなく、私を実験台として、自身の仮説を立証したいだけに過ぎなかった。それはまるで、幼子がよくやる「お医者さんごっこ」のようであった。