ここはカフェ・パラディッソ。南硫黄島のベースキャンプ、通称BCに咲いた一輪の花である(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
島全体が天然記念物に指定されている南硫黄島。ここは無人島であり、特に優れた原生自然環境を維持しているため「原生自然環境保全地域」にも指定されています。この南硫黄島について「人類はこの島の自然を守ったのではなく、どちらかというと手が出せなかったのだ」と語るのは、鳥類学者の川上和人さん。今回は、川上さんが南硫黄島に自然環境調査で訪れた際のエピソードを紹介します。その川上さん、島の調査の合間にカフェを開いたそうで――。

カフェ・パラディッソ

「マスター、コーヒーある?」

「ホット? アイス?」

「そうだね、今日は暑いからアイスで頼むよ」

ここは東京都最南端のカフェ、疲れた男たちの憩いの場である。

今日も仕事帰りの常連たちが足を運ぶ。クーラーボックスの中でよく冷えたアイスコーヒーをいつもより少し多めに注ぐ。

本日のコーヒーは、袋の中から無造作にチョイスしたインスタントコーヒーで作った『マスターの気まぐれコーヒー』である。

「今ならゼリー寄せ南硫黄風もあるよ」

「じゃぁ、それもらおうかな」

アルミパウチに入ったウィダー・イン・ゼリーをコッヘルの中にしぼり出し、成層火山型に盛りつける。

その周りにインスタントコーヒーを注げば、海に浮かぶ南硫黄島さながらの勇姿がいっちょ上がりだ。

ここはカフェ・パラディッソ。南硫黄島のベースキャンプ、通称BCに咲いた一輪の花である。