裏方仕事は不可欠
長期の野外調査では、さまざまな事態を想定しておかなくてはならない。天候が急変するかもしれないし、トラブルで撤収できなくなることも想定の範囲内だ。
場合によっては、荷揚げ時に食料が流されて失われることだってあり得る。不測の事態にも冷静に対応できるよう、水と食料は多めに持ってきてある。
しかし、調査期間も半分を過ぎ、調査終了までの目処が立ってきた。撤収時には残った荷物を全て持ち帰らなくてはならないため、あまり残すことなく食料を消費しておきたいのである。
いつも似たような保存食ばかりでは食欲が刺激されない。そこで、少し変化をつけて消費を促し、撤収の労力を減らそうという算段なのである。
私の調査はアカパラと山上で80%ほど完了している。あとは、海岸部に仕掛けた自動撮影カメラやネズミ確認用の殻付き落花生を回収するなど、細々とした仕事を残すのみだ。
このため、後半は調査隊のバックアップが主な仕事である。物資の管理や食事の準備、船や各分野の調査班との無線のやりとりなど、隊を効率よく動かすには裏方仕事は不可欠なのである。
※本稿は、『無人島、研究と冒険、半分半分。』(東京書籍)の一部を再編集したものです。
『無人島、研究と冒険、半分半分。』(著:川上和人/東京書籍)
絶海の孤島、南硫黄島。本州から南に1200kmの場所にあり、その開闢以来人類が2度しか登頂したことのない、原生の生態系が残る奇跡の島である。
本書は、その島に特別なミッションを受けて挑む研究者たち(主に鳥類学者)の姿を、臨場感あふれる筆致で描く冒険小説であるとともに、進化や生態についての研究成果報告書でもある。