母を思う子どもの心に胸を打たれた

第3に人情喜劇であるところがいい。映画『男はつらいよ』(1969~95年)や故・向田邦子さんが脚本を書いたTBS『寺内貫太郎一家』(1974年)など日本人は人情喜劇が大好きだが、近年はめっきり減った。これも民放作品の大半が若者向けになったことが大きい。その点でもこの作品は貴重だ。

初回では開業医の田口篤司(戸次重幸)が永瀬にタワーマンションの購入を求める。「タワマンの住民になりたい」という見栄からである。

永瀬は結局、田口を神木に横取りされるのだが、それでも田口に会い、タワマン購入を止めるように説得する。田口の妻・友梨佳(土村芳)には2年前の交通事故の後遺症があり、右足がやや不自由であることを知ったからである。正直営業の本領発揮だった。

「田口さん、あなたが守るべきことは虚栄心などではなく、ご家族ではないですか」(永瀬)

友梨佳の後遺症を永瀬に教えてくれたのは6歳の1人息子・櫂(佐藤遙灯)。田口がタワマン購入を前に浮かれているとき、櫂はずっと心配そうな目をしていた。母親に辛い思いをさせたくなかったのだ。永瀬の誠実さも良かったが、母を思う子どもの心に胸を打たれた。

田口はもちろんタワマンを買わず、神木から低層階マンションを購入する。それでも田口が感謝したのは永瀬である。周囲から「不動産営業マンを紹介してくれ」と頼まれると、迷わず永瀬を紹介した。やはり日本人が好む正直者が報われる物語になった。