得意なこと、熱中していたことを質問してみる

もう一人、印象的だった方がいます。

畳のヘリにつまずいて転倒し、それ以来、寝たきりになって認知症になった方です。いつも車いすに座り、ぼーっと廊下から窓の外を眺めています。

施設の方に「どんな人?」と聞くと、「チンゲンサイを日本に導入された方だそうです。すごいお金持ちなんですって。でも、何を話しても通じませんよ。奥さんのこともわからないみたいです」と。

 そこで私は、彼のそばに行き、話しかけてみました。

「こんにちは。チンゲンサイの名人ですって?」

その瞬間、パッと目が輝いたように見えました。いける!

「私は東京に住んでるんですけど、小さな畳一畳ぐらいの畑で菜っ葉をつくっているの。すぐに虫に食われて駄目になっちゃうのだけど、いい方法ないかしら?」

質問には答えませんでしたが、生き生きとした顔をしたのです。そんなとき、向こうから女性が近づいてきました。

「あっ、どなたかいらっしゃったわよ。誰?」と聞くと、「女房」と言ったのです。私は続けて質問しました。

「今、どこにいるかわかりますか?」と聞くと、「ミサト」と施設の場所も答え、それから少しずつコミュニケーションが取れるようになっていったのです。やはり、本人の生命に光を当てることが大事なのだと、確信した瞬間でした。

余談ですが、私は女性史の観点から認知症の行動を研究したことがあります。たとえば、奥さんが認知症で、ご主人が病院に連れてきた場合、「よかったわね。今日、ご主人と一緒にいらっしゃったの?」と聞くと、「えっ、この人、知らないわ」と答える場合が多くあります。

男性は、この逆です。施設の鍵を開けて出て行こうとする認知症の男性に、「どこに行くのですか?」と聞くと、「女房のところ」と答える場合が多いのです。

つまり、男の人は追いかけて、女の人は拒否する傾向にある。はっきりした理由はわかりませんが、生活面を妻に頼っている男性が多いからかもしれません。

※本稿は、『長生きは小さな習慣のつみ重ね――92歳、現役看護師の治る力』(著:川嶋みどり/幻冬舎)の一部を再編集したものです。


長生きは小さな習慣のつみ重ね――92歳、現役看護師の治る力』(著:川嶋みどり/幻冬舎)

看護の世界で75年、生と死に向き合い〝人間らしく生きる〟ことを問い続けてきた92歳の現役看護師。生命を輝かせ自己治癒力を引き出すには、あたり前の暮らしを見直すこと。ぴんぴんキラリ健康長寿の秘訣決定版。