京成電鉄の沿線は、どこか庶民的でーー(写真提供:Photo AC)
『沿線格差』という言葉を目にすることが増えましたが、フリーライターの小林拓矢さんいわく、「それぞれの沿線に住む人のライフスタイルの違いは、私鉄各社の経営戦略とも深くかかわっている」のだとか。今回はその小林さんに「京成電鉄沿線の魅力と実情」を紹介していただきました。京成電鉄の沿線、とくに、東京都内の区間はどこか庶民的なのだそうで――。

京成電鉄沿線の魅力と実情は?

京成電鉄の沿線は、どこか庶民的である。とくに、東京都内の区間はその傾向が強い。葛飾区などを通るせいか、下町情緒があふれている。

京成電鉄本線でもっとも混雑しているのは、JR山手線との接続駅である日暮里(にっぽり)の手前ではなく、JR総武線船橋駅に近接する京成船橋の手前である。

ラッシュ時の混雑率は、2021(令和3)年度で98パーセント。なお、押上(おしあげ)線はさすがに都心に近いところが混雑しており、押上の手前で93パーセント。

京成の利用者は、地下鉄に直通する人を除けば、京成船橋でJRに乗り換える、というのが行動パターンである。

混雑率から見ても、都心に向かう会社員などでラッシュ時はあふれているというわけでもない。沿線には、中小の商工業者が多く住み、そのなかで大きくなった会社には、タカラトミーのようなおもちゃの会社もある。タカラトミーのボードゲームの名作、「人生ゲーム」の発売55周年を記念し、青砥(あおと)では駅看板を「人生ゲーム」仕様にしたこともある。

漫画家のつげ義春は幼い頃、葛飾区で暮らしていた。小学校を出ると貧しさゆえに中学校には進学せず(なお、この頃はすでに義務教育の新制中学校になっていた)、メッキ工場で働いていた。このときの経験をもとにした作品が、「大場電気鍍金工業所」である。

いまでは、この漫画に描かれたような厳しい労働環境の工場はないものの、中小商工業者が多く集まる場所であるという地域性は変わらない。

そういった小規模の商工自営業者の集積する地を、東京都内の京成電鉄は走行している。