ステキな大人の恋
とまあ、これは『伊勢物語』25段に見える、有名な逸話です。
ただ、史実かというと、そうではないらしい。
わが国で最も古い勅撰和歌集(天皇の命で作られた和歌集)である『古今和歌集』に、この二つの歌は隣同士に配置されているんです(「巻第13・恋歌三」)。
そこに着想を得た『伊勢物語』の作者(具体的に誰であるか、いまだ定説はない)が恋の駆け引きの話に仕立てたといわれています。
でも、こんな風に断固として、かつ優雅にふられるなら、男冥利に尽きるというもの。とてもステキな大人の恋ではありませんか。
※本稿は、『応天の門』(新潮社)に掲載されたコラムの一部を再編集したものです。
『「失敗」の日本史』(著:本郷和人/中公新書ラクレ)
出版業界で続く「日本史」ブーム。書籍も数多く刊行され、今や書店の一角を占めるまでに。そのブームのきっかけの一つが、東京大学史料編纂所・本郷和人先生が手掛けた著書の数々なのは間違いない。今回その本郷先生が「日本史×失敗」をテーマにした新刊を刊行! 元寇の原因は完全に鎌倉幕府側にあった? 生涯のライバル謙信、信玄共に跡取り問題でしくじったのはなぜ? 光秀重用は信長の失敗だったと言える? あの時、氏康が秀吉に頭を下げられていたならば? 日本史を彩る英雄たちの「失敗」を検証しつつ、そこからの学び、もしくは「もし成功していたら」という“if"を展開。失敗の中にこそ、豊かな"学び"はある!