『定年物語』執筆に際して

基本的に、『結婚物語』から始まって、『新婚物語』、『銀婚式物語』、『ダイエット物語……ただし猫』って……えーと……ほぼ、実話です。

『定年物語』(著:新井素子/中央公論新社)

どうしよう。実話なんだよ、ほぼ、これ。よりにもよって、旦那の健康保険がきれた翌日、旦那が“死にそうになる”とか、全部実話なんだから……どうしよう。本文中にも書いておりますが、「どう考えてもこれは悪い意味で“作りすぎ”」としか思えないエピソードが実話だったら……もう、作者としてはどうしていいのか判りません。

……まるでお話の申し子のような夫を持ってしまった自分を、お話作りとしては「お話の神様、どうもありがとうございます」って容認するしかないのか? それにしても、うちの旦那って、どっか変ではないのか?

う、う、うーん。

(ただ。一応、“ほぼ”実話、ですからね。“ほぼ”。“ほぼ”がついてます、“ほぼ”。“ほぼ”、だからね、“ほぼ”。……って、これは主張すればする程、なんか〝ほぼ〞の効果が薄くなってゆくような気がしないでもない……。)

まあ、ただ。

コロナが酷くなった段階で、旦那が会社を辞めてくれて、私としては本当に嬉しかったです。いや、コロナがどんなに酷くなっても会社を辞められない、そんなひとにしてみたら、こんな贅沢で我が儘な話はないとは思うのですが、年とってすでにめんどくさい病気を複数抱えている、伴侶である私も含めて、あわせて月に何回も病院に通っている、そんな旦那が、“通勤しなくてよくなった”ことにほっとする、この気持ちは判っていただけると嬉しいです。