女性が「魅力的」と評価した顔の特徴とは

それでは、実際に男性はふくよかな頬と厚い唇の女性の顔に魅力を感じ、女性は彫りの深い男性の顔を魅力的に感じるのでしょうか。

この疑問をイギリスと日本の共同グループが調べて報告した研究が、1998年にNature誌に掲載されました。しかし、その結果は予想外なものだったのです(*2)。どんな実験だったのか詳しく見てみましょう。

彼らは、西洋人と日本人の男女それぞれの平均顔をもとに、二次性徴によって現れる形態的な特徴としての女性らしさを強調した顔と男性らしさを強調した顔を作成しました。そして、それらの顔の魅力度を50人の西洋人と42人の日本人に評価してもらいました。

すると、予想通り男性は、女性らしさを強調した女性の顔をより魅力的だと評価しました。一方、女性は、男性らしさを強調した男性の顔よりも、女性らしさを強調した男性の顔をより魅力的だと評価したのです。この傾向は西洋人でも日本人でも共通して見られました。

さらに、男性らしさを強調した顔は、支配的で、協調性に欠けると評価されてしまったのです。現代社会では、外敵から守ってくれる強い男性よりも、家族に対して優しく、協調性に長けた男性が好まれるということでしょうか。

このように、人がどんな顔を魅力的と感じるかについて、大勢の研究者がたくさん研究をして調べてきました。顔の好みは人それぞれ異なり、ここで挙げた要因だけが顔の魅力を決定するわけではありません。

また、なぜ特定の顔を魅力的と感じるのかに関する理由にはさまざまな推測がありますが、どれが正しいのかははっきりしていません。しかし、人間が顔の魅力に興味を持っていることは、確かであるようです。

<参考文献>
*1_ Aharon, I. et al. Beautiful Faces Have Variable Reward Value: fMRI and Behavioral Evidence. Neuron 32, 537-551, doi:10.1016/s0896-6273(01)00491-3(2001).
*2_ Perrett, D. I. et al. Effects of sexual dimorphism on facial attractiveness. Nature 394, 884-887, doi:10.1038/29772(1998)

※本稿は、『顔に取り憑かれた脳』(講談社)の一部を再編集したものです。


顔に取り憑かれた脳』(著:中野珠実/講談社)

デジタル時代の今、ネット上は過度に加工された顔であふれている。これはテクノロジーの急速な発展がもたらした、新たな現代病なのかもしれない――なぜ、人間は《理想の顔》に取り憑かれるのだろうか。そのカギとなる「脳の働き」に最新科学で迫る。そこから浮かび上がってきたのは、他者と自分をつなぐ上での顔の重要性と、それを支える脳の多様で複雑な機能の存在だった。

鏡に映る「自分の顔」が持つ、新たな意味にあなたは驚くかもしれない。