35年以上真面目に働いてきたのに

「知らなかったから、もうショックで」

そもそも、住宅ローンの返済期間は最長79歳11ヵ月までなので、あと20年ちょっとしかありません。返済期間が短いイコール借り入れ枠は小さくなります。そのうえ、他のローンがあることで銀行から住宅ローンで借りられるのはすごく少ないことを、仲介業者との面談の中で知らされました。せっかく大企業に勤めているのに。途中で転職もせず、35年以上真面目に働いてきたのに。それでも、祥子さんは、少ない予算の中でマンション探しを始めました。

地元に戻る気はなかったんですか?「ないね。だって、戻ったら、あのきょうだいたちに……」。長女として、頼られることは目に見えています。バリバリ稼いだ亡き母に替わって、自分が経済的にも面倒を見ることになるでしょう。実家には、通えるうちは時々通って、庭の手入れをして母の思い出に浸るつもりです。でも、ずっと住もうとは思いません。祥子さんは苦笑します。

「友だちにも言われるの。祥子さん、お願いだから自分のために生きて、って。自分のためにお金使って、って」

予算的には、「終の住処」はほかの地方で買っても良いのでは?――実は考えたそうです。仕事でご縁のあった土地なら、知り合いもいます。「おいでおいで、って言ってくれるのよ」。でも祥子さんは運転免許は持っていません。「車がないとつらいでしょう」。車がなくても過ごせる地方都市となると、コンパクトシティで有名な富山はどうでしょう。「それも考えた。富山いいよね。でも、私、雪はきらいなの」。雪国出身の祥子さん、雪かきや雪下ろしの面倒はよく知っています。というわけで、結局、いま仕事もある東京に、会社員のうちにローンを組んで買う、という選択肢に落ち着いた訳です。