「私が十代の頃、初めてかっこいいなと思った舞が父・万作の『三番叟(さんばそう)』なんです」(撮影:岡本隆史)
〈発売中の『婦人公論』4月号から記事を先出し!〉
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第27回は狂言師の野村萬斎さん。狂言師でありながら、俳優、演出家、プロデューサーとして活躍する萬斎さん。ロンドン留学、三谷幸喜さんとの出会いなど、様々なカルチャーショックが糧になっているそうで――。(撮影=岡本隆史)

『三番叟』は野村家のライフワーク

狂言師の野村萬斎さん、ではあるけれど、俳優、演出家、そしてプロデューサーとしての幅広い活躍ぶりがめざましい。

それでいて、30年前にNHK大河ドラマ『花の乱』(94年)の細川勝元役や朝ドラ『あぐり』(97年)のエイスケ役で颯爽と登場した際の〈白皙(はくせき)の美青年〉のイメージを、今も保ち続けているのがすごい。

――子供の頃、さあ、近くの小石川植物園へザリガニ取りに行こうかな、と思っても、家に父がいるとそこで稽古が始まっちゃうので、出かけられないんですね。

小さい頃はそれでも従順だったんですが、反抗期になると少し不貞腐れるところもあって、稽古中の態度が悪かったのか、父から扇とかいろんな物が飛んでくる。

ですから蜷川(幸雄)さんが灰皿投げるとか、黒澤(明)さんが怖いっていうのは、僕らにとっては別に当たり前のことじゃないかと思えます。

のちに、息子の祐基(ゆうき)に対して僕が物を投げたこともあると思いますよ。まぁぶつからないようには投げますけど、これ、こちらが我慢ならないんだというアピールになりますからね。

それで私が十代の頃、初めてかっこいいなと思った舞が父・万作の『三番叟(さんばそう)』なんです。当時、僕はロックに凝っていたりとか、マイケル・ジャクソンが全盛期だったりしたので、そういうものをかっこいいと思う感覚と、自分の中の躍動感が狂言とも呼応する、ということがわかったわけです。