「《諦める力》というのは、後ろ向きやなく前向きな力やと思いますね。絶対に必要です」

不在時を狙って家に帰ってくる夫

一度も親元を離れたことのない夫は家事ができません。リビングの高い天井にたくさんつけてもらった素敵な照明も、時が経てば1つずつ切れてしまうのに、絶対に電球を交換しない。ある日、「電気が全部消えた」って。笑えないです。本を読むために電球ではなく読書灯を買ってきたと言うんですから。

別居して半年経ったころ、1度だけ夫の様子をのぞきに行ったことがあります。玄関上がってリビング見て、すぐ靴を履きに戻りました。埃だらけで、土足じゃなければとても上がれない。ゾッとしました。「掃除に行かせて」と言っても、「僕の聖域に入るな」と断るんです。誰のマンションや、と思いますけど。(笑)

私がマンションへ行くことはほとんどありませんでしたが、夫は毎週末ご飯を食べに帰ってきました。彼は「行ってよろしいか?」なんて死んでも言いません。私から「お鍋でもしませんか?」と誘うんです。すると彼は喜んでやってきて食事をし、1泊して翌朝帰る。そんなスタイルで、昨年の11月まではうまくやっていたと思います。

あの週末はたしか、いつものように家に帰ってきた夫とお鍋を食べました。翌朝、彼は5時に起床。マンションでもその時間に起きて、ポトフを作ってるそうです。真っ暗なのにおかしいですやん(笑)。だから家に帰ってきてもそのペースで過ごす。

すももはまだ眠いのに散歩に連れていかれる。6時ごろに物音で起きると夫がムスッとしていたので「朝ご飯作るね」と言ったら、「いえ、いりません。僕はマンションでポトフを食べますから」と。「作るのに」「いや、いいですいいです」。それで帰っていきました。

その後ろ姿を見た時、この人とはしばらく会わないでおこうと思いました。私は標準語の人が好きなんですが、ああいう時は厳しいね。

以来、1度も会わないまま数ヵ月。年末年始も別々でしたわ。もっとも彼は、私がラジオ収録などで不在にする時間帯を狙って家に来ています。そして焼き菓子とか好きなものを持って帰る。やっと手に入れた山崎のウイスキーも2本。そのかわり、自分のマンションから空きビンや空き缶を持ち込んで置いていくんです。