大きな慈悲

またこんなことがありました。

慶應義塾大学に入学したばかりの十八歳の時、友達が渋谷の盲目の女性占い師マリー・オリギンをナンパして一緒にお茶を飲みました。本人は「目が悪くてぼやっとしか見えない」らしいのですが、宏基に対してこう言うのです。

「あなたはお母さんに一生守られています。つぶれた家を建て直すことになるでしょう。あなたのお母様は大きな慈悲を持っておられて、あなたは守られているのです」

「目が悪いのになぜそんなことが分かるのですか」と聞き返しました。

「あなたが豊かな声をしているので分かるのです」と答えたのです。

友達二人も見てもらうと、一人は「家業を継ぐでしょう」、もう一人は「ご養子になるでしょう」と言い、その通りになりました。ここまで当てる占い師は見たことがなく、宏基はそれ以来、仁子をお守りと信じ、あの事故で死ななかったのも仁子が守ってくれたお陰と信じるようになったのです。

大学を卒業するとすぐ、宏基はアメリカに留学しました。出発する時に、仁子はこう言って送り出しました。

「何があっても、命だけは持って帰ってきなさい」