自意識過剰だった少女時代

しかし父は名を知られた歌人でもあり、その父が六十歳前後になって生まれた末っ子であり、父に愛されて少女の頃から才を十分に発揮していたと聞くとなんとなく合点がいく。

世慣れてはいなくても、彼女の中では幼い頃から十分に自意識が育っており、田舎まわりの出世下手の父の下で学問や教養という大切なものを吸収しながら、自分の置かれた環境が自分にはふさわしくない、いつの日か必ずその才を発揮できるという自信が芽生えつつあったに違いない。

その意味では上昇志向と傲慢さをも併せ持って成長していったことは想像に難くない。

私自身がそうだった。

小学校二年で肺結核にかかり、ほぼ二年間疎開先の奈良県の山の上の旅館の離れに隔離され同じ年位の子供達と学ぶことも遊ぶこともできず敗戦を迎え、軍人だった父は公職追放になり、社会的にも経済的にも追いつめられた暮らしの中で、決してめげてはいなかった。

今の環境には決してのみ込まれない。いつかきっと私にふさわしい時代が来る。人付き合いが下手で、友達もいなくて孤独な少女だったが、自意識過剰でなぜだか自信があった。

そして大学を出て就職し一人で生きることになって、開き直った所から道が開けた。清少納言にもその開き直りの強さを感じるのだ。

※本稿は『ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考』(草思社)の一部を再編集したものです。


ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考』(著:下重暁子/草思社)

清少納言の人物像に迫る新機軸の生き方エッセイ! いかに生きて いかに死ぬ? 「枕草子」に学ぶこれからの人生

2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で平安時代に注目が集まるなか、紫式部のライバルとして名高い清少納言にもスポットライトが当たっている。「私は紫式部より清少納言のほうが断然好き」と公言してはばからない著者が、愛読書「枕草子」をわかりやすく解説しながら、「いとをかし」的前向きな生き方を、現代を生きるシニア世代に提案する新しいタイプのエッセイ。縮こまらず、何事も面白がりながら、しかし一人の個として意見を持ち自立して生きていくことの大切さを説く、87歳渾身の書き下ろし。