約束

なお、ここに出てきた姉は、まもなく亡くなってしまった。

紫式部は、同じく妹を亡くした女性と義姉妹の約束をしている。

「北へ行く 雁(かり)のつばさに ことづてよ 雲のうはがき かきたえずして」
(北へ飛んで行く雁の翼にことづけて下さい。今まで通り手紙の上書を絶やさないで)

為時の方は相変わらず散位(さんい)で過ごし、しかも後妻の許に通う日々であった。母も姉も亡くした紫式部にとって、邸内に肉親といえば弟が一人いるだけである。

不遇の家で少女時代を寂しく過ごした紫式部は、思索を重ねるなかで、兼家から道隆・道兼・道長への政権交代を、まったく他所のこととして聞いていたことであろう。

※本稿は、『紫式部と藤原道長』(講談社)の一部を再編集したものです。


紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏/講談社)

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