成就しなかった色恋沙汰
「なまおぼおぼしきこと」が男女の交流を指すことは間違いなかろうが、それが姉妹のうちのどちらとのものであったか、また男が後に紫式部が結婚する藤原宣孝だったのか、はたまた他の男であったのかは、はっきりしない。
とまれ、『源氏物語(げんじものがたり)』の空蝉(うつせみ)と軒端荻(のきばのおぎ)の話(空蝉に逃げられた光源氏が、空蝉の義理の娘の軒端荻と関係を持ったもの)のような出来事であった。
方違のために泊まりに来るのであるから、為時と同格以上の身分の者であろうし、為時と親交のあった人物なのであろうから、宣孝の可能性もあるであろう。
ただ、この男は歌の筆跡が姉妹のどちらか見分けることができなかったとあり、返歌の内容も、そうしているうちに朝顔の花がしおれてしまったというのであるから、どうも成就しなかった色恋沙汰のようである。
実事がなかったからこそ、紫式部は『紫式部集』にこのエピソードを収めたのではないだろうか。
この年、紫式部は推定18歳である。