夫の着ぐるみを着た別人がそこにいる

ところが彼の個人タクシー事業は、営業を始めた途端、コロナ禍にぶち当たった。緊急事態宣言が発出され、タクシー需要は激減。会社員時代と変わらず、生活はカツカツだ。

給付金でなんとか堪え忍んでいた彼を、さらなる不幸が襲う。ある日、片方の脚が付け根から爪先まで、象のようにぱんぱんに腫れあがった。皮が引っ張られ、ひざを曲げることもできない。嫌がる男を病院に連れていき、調べてもらった。

免疫の壊れる難病という診断。それからはずっと、病院と縁が切れない。「今日明日が危ない」と医師に言われたこともある。

泡を喰った私は、この時点ですでに離婚して12年も経っているのに(それは実に婚姻期間の3倍だ!)、戸籍だけでも夫婦にしておかないか、と彼に提案した。家族か、家族でないか。コロナ禍の病院では厳然と区別された。家族ならば病状を聞くことができるが、家族でなければ、いくら頑張っても蚊帳の外。

離婚後、私たちは一緒には暮らさなかったが、自転車で15分ほどの距離に住んで、週末は一緒に買い物に行ったり、ご飯を食べたりしていた。夫婦だった頃よりもずっと関係はよい。それなのに、病院で「あんたは家族ではないから関係ない」と言われたくない。