(撮影:新潮社)
厚生労働省が行った「令和4年 国民生活基礎調査」によると、悩みやストレスの原因として最も多く回答されたのは「自分の仕事」、次いで「収入、家計、借金等」だそうです。人生には数多くの「苦」があるなか、「生きているだけで大仕事。『生きることは素晴らしい』なんてことは言わない」と話すのは、恐山の禅僧・南直哉さん。今回は、南さんが説く、心の重荷を軽くする人生訓を自著『苦しくて切ないすべての人たちへ』より、一部お届けします。

後ろ向き人生訓

恐山にいると、地元の学校などから学習や行事に協力するよう求められることがある。

先だっても、知り合いの先生から電話があって、「〈総合学習〉の一環で、恐山を調べたいという生徒がいるんですが、協力してくれませんか」

その日は恐山にいるので、境内を案内して質問に答えることくらいはできると言うと、当日、先生に引率されて10人くらいの生徒さんがやってきた。

さすがは、「学習」で来ているので、下調べがしてあるらしく、案内する私の話を熱心に聞いてくれ、質問も的確で、感心してしまった。

その案内が終わりに近づいた頃、それまで列の最後尾にいた先生が、いつの間にか追い付いてきて、肩が並んだ私に話しかけてきた。

「南さん、お忙しいところ申し訳ないが、最後に生徒たちに何か少し話をしてくれませんか。元気そうに見えても、やっぱり色々抱えている子も多いんです。家のこととか、友達関係とか。何か励ましというか、きっかけになる言葉をかけてくれませんか」

「だったら先生、話を僕に全部任せますか? 僕は夢だの希望だの、努力は報われるだの、前向きのことは一切言いませんよ。子供の頃、それこそ夢も希望も枯れ果てたような中年オヤジが、卒業式なんかで押しつけがましい訓示を垂れるのに、ホトホト辟易してきた自分です。本当にそうだと思ったことしか言いません。それでよいですか? その後どうなっても、僕は一切責任をとりませんよ」

すると先生は即座に、「それで結構です! 言いたいことを言ってください!」

「では」と始めたのが以下の話である。