『もーれつア太郎』主人公を超えた人気キャラクター

『もーれつア太郎』は、東京下町を舞台に、父を失い逆境にありながら健気に八百屋を営む人情家で親分肌のア太郎と、従業員で子分のデコッ八、サブキャラで豚を率いるブタ松一家が登場して時代錯誤の任侠路線が生まれた。八百屋なのに易者になりたかった父・X五郎=すぐ死んで幽霊で登場=がいろいろなものに乗り移ってギャグが展開する。

ところが、途中から、2本足で歩き人間の言葉を話す猫・ニャロメ、「ぽっくん、ぽっくん」や「……のココロ」など怪しげな日本語を操る狸・ココロのボス、ケムンパス、べしなど強力なキャラクターが出てきて、結局、ハチャメチャギャグに様変わりする。

中でもニャロメは主人公を食ってしまい、それで『もーれつア太郎』は『週刊少年サンデー』でNo.1人気になっていく。

ニャロメのモデルとなったのは、赤塚の少年時代、大和郡山で見かけた猫だった。

漫画でもいじられキャラだったニャロメだが、常に被害者であるとは限らない。時には正義感の強いリーダー格になったり、過激派にも変身、またインチキで、ずるくて、だらしなくて、おっちょこちょいで、加害者ですらある。人間以上に人間的な、オールマイティーのキャラクターに成長した。

漫画は70年6月まで続くが、ちょうど70年安保闘争の時期で、全共闘に『ニャロメ派』が出来たほどの人気だった。

赤塚の傑作漫画を収録した『赤塚不二夫1000ページ』(扶桑社)の巻末インタビューではこんなことを言っている。

「漫画は、本当に強烈なキャラクターがひとつポンと出てくると、信じられないくらいうまくいくものなんだよね。キャラクターってのは考えて作れるもんじゃなくて、いつか何かの拍子で出てくる」

赤塚は週刊4本、月刊7本の連載を抱えるようになり絶頂期を迎えていた。

※本稿は、『赤塚不二夫 伝 天才バカボンと三人の母』(内外出版社)の一部を再編集したものです。


赤塚不二夫 伝 天才バカボンと三人の母』(著:山口孝/内外出版社)

強い、弱い、きれい、汚い……。

すべての存在をあるがままに命がけで肯定した天才と、その天才を生み育てた「母」の物語。

3人の「かあちゃん」が大好きだった、赤塚不二夫のすべて。