「体が動くうちは、氷の上でパフォーマンスを続けたい。だから、僕の中では、引退ではなく、次のステージへの移行のような感覚です」(撮影:宅間國博)
2010年のバンクーバー五輪での銅メダル獲得をはじめ、フィギュアスケート競技で数々の輝かしい成績を残してきた。14年に引退するも、18年、32歳で現役復帰。20年からはアイスダンスに転向し、国際大会において圧倒的な表現力を見せた。23年5月、惜しまれつつ競技生活にピリオドを打った高橋大輔さんだが、38歳の今、未来をどう見据えているのか――(構成:平林理恵 撮影:宅間國博)

次のステージへの移行のような感覚

競技生活を引退してからちょうど1年。本当にあっという間でした。アイスショーにたくさん呼んでいただきましたし、テレビ番組への出演で初めて体験する仕事もあり、充実していましたね。

競技からは卒業しましたが、滑ることをやめたわけではありません。体が動くうちは、氷の上でパフォーマンスを続けたい。だから、僕の中では、引退ではなく、次のステージへの移行のような感覚です。

その新しい舞台の一つとして、6月に、アイスショー『氷艶 hyoen2024-十字星のキセキ-』に出演します。「氷艶」は、日本文化とフィギュアスケートを融合したストーリー仕立ての氷上総合エンターテインメント。17年の第1弾では歌舞伎俳優の方とのコラボレーションで源義経を、19年の宮本亞門さん演出の第2弾では、光源氏を演じました。

今回は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフに、前回に引き続き宮本亞門さんが演出します(※)。共演するのはミュージカル俳優の方々。僕自身も歌を歌うパートがあるとか(苦笑)。プレッシャーを感じますが、広がるご縁にワクワクしています。

実は、僕のスケート人生の節目節目に「氷艶」とのご縁がありました。最初にシングルを引退した後には『氷艶 hyoen2017-破沙羅(ばさら)-』に出演。1度目の引退の時は、スケートしかできない自分が嫌でたまらず、スケートから離れたい気持ちがいっぱいで。

留学したり、キャスターをさせてもらったりと、もがいている最中でした。ところがある時、「スケートしかできなくてもいいや」と急に受け入れられて。確かにメインのフィールドを持っていても多方面で活躍できる方はいます。でも僕にはその才能はないな、と。

まずは自分のスケートをもう一度取り戻そう。そして、それを軸に世界を広げていって、1人のエンターテイナーとして生きていきたい。もし広げられなくても、その時に考えればいいじゃないか。そう覚悟が決まりました。これが翌年、32歳での現役復帰につながったと思います。

(※5/16に宮本亞門さんは演出原案、尾上菊之丞さんが演出統括となることが発表されました)