梨の花を詠む
一般的に日本では賞翫(しょうがん)されることのない梨の花も詠んでいる。
花といはば いづれかにほひ なしと見む 散りかふ色の ことならなくに
(桜も梨も花という以上は、どれが美しくない梨の花と見ようか。風に散り乱れる花の色は違っていないんだもの)
すでに当時の一般的な婚期を過ぎ、美人という評判も立っていない自分を、梨の花にたとえたものであろうか。
これも中国では「長恨歌(ちょうごんか)」にあるようにもてはやされる梨の花を詠みこむあたり、『枕草子』第35段の「木の花は」に通じる美意識である。
ともあれ、こうやって紫式部の結婚生活ははじまった。
このまま幸福な日々がつづくと、このときには思われたことであろう。
※本稿は、『紫式部と藤原道長』(講談社)の一部を再編集したものです。
『紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏/講談社)
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