紫式部の返事

紫式部の歌になだめられたはずの宣孝は、「浅い心のお前との仲は切れるなら切れるがいいんだよ」という歌を寄こし、「もうお前には何も言うまい」と腹を立てたが、紫式部は笑って歌を返した。

言ひ絶えば さこそは絶えめ なにかその みはらの池を つつみしもせむ
(もう手紙も出さないとおっしゃるなら、そのように絶交するのもいいでしょう。どうしてあなたのお腹立ちに遠慮なんかいたしましょう)

『紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏/講談社)

宣孝は結局、夜中になって、「お前には勝てないよ」と降参することになる。

父娘ほども年齢の離れた夫に対して、結婚後すぐに主導権を握る紫式部もさすがであるが、希代の天才である紫式部とこのようなやりとりをすることのできる宣孝というのも、考えてみれば大した男ではある。