劇的なイメージチェンジ

そんな小泉今日子が劇的に変化したのは、髪をショートカットにした5枚目のシングル「まっ赤な女の子」以降である。

デビューして1年。この辺りでイメージチェンジし、勝負をかけるべきと事務所も判断したのだろうが、何よりも本人の意志がそれを後押しした。

小泉 事務所には一応、「今から髪を切ってきます」とは言ったんですけどね。「どのくらい?」「わりと短く」って言っておいて、帰ってきたら皆がびっくり(笑)。「えー、だって切るって言ってたじゃん!」と、確信犯的に。(『小泉放談』254)

いきなりのカリアゲショート。それは、当時「最先端」とされたおしゃれなヘアスタイルだった。

『小泉今日子と岡崎京子』(著:米澤泉/幻冬舎)

80年代前半にブームとなった個性的なDC(デザイナーズ&キャラクターズの略)ブランドの服にもぴったりのジェンダーレスな髪型は、もちろんそれまでのアイドルにはあり得ないアヴァンギャルドなものだった。

イメージチェンジと言っても選択肢はいろいろあったはずだが、敢えてカリアゲショートを選んだ理由を小泉自身は次のように述べている。

小泉 当時憧れていたモデルさんたちもアーティストも、皆ショートカットでかわいいのに、「アイドル界、遅れてる!」って気持ちに、すごくなっていて。まぁ、自分でも勝手に固定観念に縛られて、「こういう髪型でないとダメなんだろうな」と思っていたんですが、1年くらいやってみて「いや、そうじゃないんじゃないか?」と。(『小泉放談』254)

小泉が言うように、当時のアイドル界は非常に「遅れて」いた。髪型だけでなく、アイドルの衣装と最新のファッションの間には深淵が横たわっていたのである。

現在のように、アイドルがファッション誌の表紙モデルになることなど考えられない時代だった。アイドルが表紙を飾るのは『明星』か『平凡』などの芸能雑誌、せいぜい週刊誌と言ったところだろうか。

しかし、小泉今日子は、髪を切ったことでその溝を一気に跳び越えた。遅れているアイドルから進んでいるアイドルへ。カリアゲショートが、彼女をスターダムにのし上げたのだ。