中沢啓治『はだしのゲン』姉、弟を助け出せずに苦悶するゲンと母
家屋の下敷きになった父、姉、弟を助け出せず苦悶するゲンと母(中沢啓治『はだしのゲン』第1巻[中公文庫]より)

漫画家と結婚し仕事を手伝うように

知り合った時、夫はすでに東京で漫画家になっていました。彼が広島に帰省した際、飲み会みたいなものが開かれて、私にも声がかかったんです。

話がとても面白くてねぇ。全員の分をご馳走してくださったのでお礼状を書いたら、忘れた頃に返事があり、「また帰省するんだけど会いませんか」と。会ったら、なんか惹かれるものがあったのね。知り合って半年ほどで結婚しました。

私、漫画家がどんな仕事で、どんな生活をしているか、まったく知らなくて。新婚生活は、東京の6畳一間のアパートでスタート。

当時夫は、月の半分はほかの漫画家のアシスタントをつとめ、残りの時間で自分の作品を描いていました。夜遅くまで起きて、わら半紙にネーム(コマ割りや台詞、人物などをおおまかに描いたもの)を描いて検討して、それから本番の紙に鉛筆で写すんです。それを今度はペンで描いていく。

真っ白い紙にペンをスッ、スッと走らせると、絵が現れてくるんです。初めて見ますから、まあ驚きましたし、感動しましたね。その様子をそばでじっと見ていると、面白くてあっという間に時間が経ってしまいます。