「死んだらどうなるのか」「天国はあるのか」。古来から私たちは、死や来世、不老長寿を語りついできました。謎に迫る大きな鍵になるのが「宗教」です。日本やギリシアの神話、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教から、仏教、ヒンドゥー教、そして儒教、神道まで。死をめぐる諸宗教の神話・教え・思想を歴史的に通覧した、宗教学者・中村圭志氏が綴る『死とは何かーー宗教が挑んできた人生最後の謎』より一部を抜粋して紹介します。
地獄については釈迦時代以来いろいろに説かれてきた
初期仏典『スッタニパータ』には、体中が出来物に覆われる地獄も登場する。
記述法としてとくに興味深いのは、ある人が堕ちた地獄の収監期間の長さがとんでもなく長いということを言うために、ひどく面妖なレトリックを用いているくだりである。
まず、かなりややこしく定義された一つの天文学的な数値を聞き手に想像させる。
そして、ある一つの地獄の刑期の長さがその数値よりも大きいことを述べ、次にそれよりも20倍も 長い刑期をもつ地獄があることを述べ、さらにその地獄よりも20倍も長い刑期をもつ地獄があることを述べ、……ということを何度も繰り返して、最終的に出て来るのが、当該の人 物の堕ちた地獄の刑期の長さだというのである。
地獄の恐怖を盛り上げるために、順繰りに過酷さが倍増していく複数の空間を数え上げるこうしたレトリックは、「セットになった地獄」の観念をもたらした。