ところが約1時間後、その病院に3発のミサイルが続けざまに着弾する。うち1発が産婦人科病棟を直撃し、カーチャさんと、同じ病棟にいた母子のあわせて3人が亡くなった。現場に駆け付けた警察医療隊の隊員は、瓦礫に埋もれたカーチャさんらを救えなかったことを悔やんだ。
「まず住宅を攻撃し、負傷者が病院に運ばれてきたタイミングで3発のミサイルが撃ち込まれました。市民の犠牲拡大が目的です」
私はカーチャさんの自宅を訪ねた。たくさんのぬいぐるみが並ぶ部屋。食べかけのクッキーが棚に載ったままだった。
「もうすぐ生まれてくる赤ちゃんを、どれほど心待ちにしていたことか……」
母のオルガさん(62歳)は、力なく言った。
「人が、子どもが、毎日殺されている。私は感情も失ってしまいました。憎しみすらわきません。みんな平和を望んでいます。もうこの戦争を終わらせてほしい。ただそれだけです」
部屋にあったカーチャさんの肖像画の目は、大きく見開いている。
「なぜ私と赤ちゃんは死ななければならなかったの」
彼女がそう問いかけてくるようで、胸が痛んだ。