病院へのミサイル攻撃で亡くなったカーチャさんの部屋で、娘の肖像画を手にする母・オルガさん。カーチャさんは妊娠8ヵ月だった(24年2月、東部ドネツク州セリドヴォ)

ところが約1時間後、その病院に3発のミサイルが続けざまに着弾する。うち1発が産婦人科病棟を直撃し、カーチャさんと、同じ病棟にいた母子のあわせて3人が亡くなった。現場に駆け付けた警察医療隊の隊員は、瓦礫に埋もれたカーチャさんらを救えなかったことを悔やんだ。

「まず住宅を攻撃し、負傷者が病院に運ばれてきたタイミングで3発のミサイルが撃ち込まれました。市民の犠牲拡大が目的です」

私はカーチャさんの自宅を訪ねた。たくさんのぬいぐるみが並ぶ部屋。食べかけのクッキーが棚に載ったままだった。

「もうすぐ生まれてくる赤ちゃんを、どれほど心待ちにしていたことか……」

母のオルガさん(62歳)は、力なく言った。

「人が、子どもが、毎日殺されている。私は感情も失ってしまいました。憎しみすらわきません。みんな平和を望んでいます。もうこの戦争を終わらせてほしい。ただそれだけです」

部屋にあったカーチャさんの肖像画の目は、大きく見開いている。

「なぜ私と赤ちゃんは死ななければならなかったの」

彼女がそう問いかけてくるようで、胸が痛んだ。