ウクライナのオデーサにある戦没兵士の墓。2022年夏に筆者が訪れたときの何倍にも増えていた(24年5月、南部オデーサ)

彼女は、夫のアナトリーさんとともに、ウクライナ中部にいる子や孫と再会できる日を待ちわびていた。

「私たちは2年間、待ちました。春が来れば私の町も解放される、次の秋にはきっと……そう信じ、希望を捨てませんでした。でも夢はかなわぬまま、時間だけが過ぎていきました」

イリーナさん夫婦は、南部ヘルソン州のアゾフ海に面した保養地で、小さな民宿を営んでいた。夏には各地から行楽客がやってきた。侵攻前、収入は夏のシーズンだけだったが、老夫婦がつつましく生活するには十分だった。

2年前のロシア軍の占領で、すべてが一変した。侵攻直後、ウクライナ軍兵士だった息子のドミトロさん(42歳)は、戦闘任務のため所属部隊に向かった。イリーナさん夫婦は逃げるあてもなく、しばらく様子を見るしかなかった。

突然の侵攻にウクライナ軍は反撃できず、あっという間に南部と東部の町や村が制圧された。