無意識で物をいう臓器
ニューロポッド細胞は、脂質だけでなく、糖(グルコースやスクロース)やタンパク質(アミノ酸)にも反応します。そこで、それぞれの物質を投与したときの延髄の孤束核の反応が解析されました。
その結果、甘味を感じる細胞は、脂質にもアミノ酸にも、つまり三大栄養素すべてに反応しました。
一方で、脂質にだけ反応する細胞も存在することがわかりました。つまり、腸は脳へ、三大栄養素をまとめた情報と脂肪だけの情報を分けて伝達していたのです(1-3)。
これらの研究結果から、マウスだけでなく私たちヒトも、糖分や脂肪分を含む食品を生まれながらに欲するのは、腸が脳と直結して、脳にとって最も即効性のあるエネルギー源である糖分や体内に貯蔵できるエネルギー源である脂肪が補給されている様子を常にモニターしているからだともいえます。
腸は、私たちが思った以上に、無意識で物をいう臓器なのかもしれません。つまり、腸の中にはあなた自身がいるようなものなのです。
・参考文献
1-1 Ren X et al., Journal of Neuroscience 30, 8012-8023, 2010.
1-2 Buchanan KL et al., Nature Neuroscience 25, 191-200, 2022.
1-3 Li M et al., Nature 610, 722-730, 2022.
※本稿は、『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を再編集したものです。
『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(著:坪井貴司/講談社)
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