時が止まった部屋
けれどもっとも気になったのは、亡くなった少年のお姉さんのこと。とても虚ろな表情をしていたからです。すべてを諦めたような生気のない表情は母親と重なって見えました。
うつ状態から仕事を辞めた母親もまた、家事もできずに一日中、リビングの遺骨を前にボンヤリと過ごしているというのです。
このままではいけないと強く思いましたが、状況は変わらぬまま七回忌を迎えました。父親がマンションの下で私を出迎え、「妻には、納骨に関して何もおっしゃらないでください」と耳打ちするのです。
というのも、ご主人が七回忌を終えたら納骨しようと提案したところ、半狂乱になって拒絶したとか。和尚さんに迷惑がかかるといけないのでということでした。
承諾してお宅へ向かいましたが、玄関からリビングへと続く廊下を歩いている時に、ふと扉の開いていた部屋の様子が目に入り、愕然としてしまいました。
少年の部屋は亡くなった日のまま、時間が止まっていたのです。畳んでベッドに置かれたパジャマ、読みかけの漫画は開いたまま、そして勉強机の上にはランドセルが載っていました。
時を動かさなくてはこの家の喪は明けない、これも僧侶としての仕事だと意を決しました。