「老化監視人」に支えられ、ときに怒られて
樋口 エッセイのなかで、黒井さんは「我が家の老化監視人」に怒られていますね。
黒井 はい。老化監視人は妻でもありますが、息子と娘です。
樋口 うちにも娘という、ひじょうに厳しい老化監視人がおります。ただ、娘は忙しく働いているので、昼間は私一人。この間、昼間に玄関で転倒したときはご近所さんに助けていただきました。
黒井 いい関係だなぁ。
樋口 私は常日頃、いまの日本は家族、すなわちファミリーが少ない、「ファミレス」時代だと申しております。子どもが少ないうえに、その子は結婚しない。日本の福祉は長年、家父長的家制度に基づいて家族内の女性が担っていた。でも、その担い手の家族数が減っている。だったら、他人同士で助け合うしかない。
黒井 確かにそうですね。昔は親子三世代が多かったけれど。
樋口 家族がいても、昼間一人でいる高齢者は大勢います。その間に何かあったらどうすればいいのか。改めて調べてみると、高齢者の転倒事故による死亡は、風呂での事故より多いんです。そういう時代になっていることを、行政もよく考えていただきたい。
黒井 最近、妻が転んで骨を折りまして。娘があちこちに連絡し、介護保険を利用して、あまり待たされずに介護用ベッドが届きました。「介護保険制度」には本当に助けられた。樋口さんたちの尽力の賜物です。
樋口 約40年前、介護保険制度の成立を求めて仲間と奮闘したんです。全国の講演会などでも感謝の声をいただくたびに本当に作ってよかったと思いますが、国による制度改定もあって、なんだか邪魔者扱いされることも増えてきました。
黒井 それは由々しき問題だ。
樋口 ですから残り短い余生は、この制度が使い勝手よく改善され、使いやすいものになるよう、PRしたいと思っております。