樋口 「生」ということで言えば、私たちは戦前、戦中、戦後を生き抜いた。私は最近少し気が短くなり、なにか病気やトラブルがあると「長生きしたからこんな目に遭うんだ」「このあたりでおさらばしたほうが、気が楽」などと考えがち。

でも、すぐ考え直します。平和のおかげでここまで生き延びることができたのだから、ああだこうだと言える幸せをもっと深く自覚しなくてはいけない、と。

黒井 僕もこの年まで生きてきた意味を最近よく考えます。90年たったからこそ見えるもの、言えることもあると思います。

樋口 私は、人口動態調査などのデータを眺めるのが好きでよく見るのですが、私たちより少し上の世代は、戦争で亡くなっている人が多いんです。私たちの世代は戦災死はいても、戦死はあまりいない。

黒井 僕らの5歳上から、男は兵隊にとられ、死んでいった。僕は遅れてきた世代のおかげで生き延びた。

樋口 この先もいろいろな時代が来るでしょうけれど、ものが言いにくい社会になるのは避けたいものです。長寿は、なんといっても平和の賜物ですから、長生きした私たちが平和への思いを橋渡ししなくては。

黒井 本当にそうですね。

樋口 ここで、「ハイ、頑張りま~す!」と、つい拳を突き上げてしまうのが、私の悪いクセ。(笑)

黒井 小学生時代から変わりませんなぁ(笑)。どうか〈雀百まで踊り忘れず〉の精神で、これからも頑張ってください。来年もお互い元気だったらまた対談しましょう。

樋口 ぜひとも。黒井さんも、老いについて心に迫るエッセイを、ぜひこの先も書き続けてくださいね。