黒井 いま考えれば、70代は「老いの青春時代」だと思います。やろうと思ったことはできるし、昔は言えなかったことも今なら平気で言えるぞ、と。70代と聞くと、「まだまだ若いんだから頑張れよ」と激励したくなる。
樋口 まさに同感。私は常々、「70代は老いの働き盛り」と申しております。仕事もまだできるし、なんでしたら恋愛もよろしゅうございますし(笑)。70代でショボンとしている人を見ると、「しっかりせぇ」と活を入れたくなりますね。
黒井 70代は、まだ先に夢がありますよ。昔だったら、この年代が自由にイキイキ過ごせるなんて想像もつかなかった。長寿時代ならではだ、と思います。
樋口 日本はご存じの通りジェンダーギャップの激しい社会ですし、生理的な老いの感覚にも男女差があるかと思っていたんです。でも黒井さんのエッセイを読むと、私とそう変わらない。80代、90代と年を重ねるごとに、もの忘れもすれば身体の不具合も増える。「そうそう」と共感することばかりです。
黒井 未熟高齢者時代は、「降りることへの恐れ」がありましたが、それも過ぎ去って。80代で運転免許を返納したときは、寂しさと同時に身軽さを覚えました。
樋口 私は80を過ぎた頃、好きだった料理がおっくうに感じて。足腰はヨタヘロまっしぐらです。
黒井 僕は朝ベッドから起き上がると、まず呼吸を整えて自分の体調を見ます。腰を伸ばすのも一苦労だし、薬も飲まなくてはならないし、老人特有の忙しさがありますね(笑)。最近、銀行のATMで暗証番号が思い出せずに現金が引き出せなかったときには、さすがに茫然としちゃって。それに、とにかくよく転ぶ。外出先も家のなかも危ない。
樋口 70代はものにつまずいて転ぶけれど、90代は、何もないところでふわっと転ぶでしょう?
黒井 そう、へんな言い方ですが、自然に転ぶんです(笑)。書く仕事は運動不足になるので、僕はウォーキングを40年間続けていますが、だんだん歩く距離が縮まってきちゃって。努力するのも面倒になる。「老い」を否定してもしょうがないし、自分のなかに取り込んで日々過ごしていくしかない。