「これだけの記録を出しているにもかかわらず、誰からも注目されない競技を選んでしまった。これしか評価されないのか、と」(武井さん)

でも、すぐに芸能界を目指してはダメだと思いました。というのも、1997年当時の1週間のテレビ番組欄をチェックすると、毎日取り上げられるスポーツのトップは、プロ野球とゴルフなのです。サッカーはJリーグ開幕から5年ほどで、まだ世の中を席捲するほどの人気ではなかった。

そこで芸能界に進むまでに、野球とゴルフの2つのスポーツは絶対にマスターする必要がある、と考えました。スポンサーを見つけてアメリカに3年間ゴルフ留学し、その後、台湾プロ野球のトレーニングコーチをするために台湾に渡りました。

台湾から帰国後は社会人の野球チームに入団し、1年間投手として活動しました。でもそれは、野球選手になりたかったからではありません。野球とゴルフ、陸上競技すべてができるというのが、芸能界で仕事を手に入れるための僕のプランだった。20代はすべてそのために使い、30代から芸能界デビューへの足がかりを掴もうと決めていたのです。

 

今の収入は、「いただきもの」

30歳になると、芸能人がよく集まる西麻布などの飲食店に通うようになりました。というのも、芸能界への入り口がどこにあるのか、さっぱりわからなかったからです。

芸能界で活躍するのに必要な能力は何か考えると、どんな番組、どんなテーマでも楽しくスムーズに話せる「トーク力」が大事なファクターだということに気づきました。そこでまずは芸人さんたちと知り合いになり、普段の会話を録音させていただいて、みんなが笑った場面だけを編集して繰り返し聞き、同じように再現する練習をしました。

正直、最初はどういうことが面白いのかもピンときていませんでした。でも、だんだんコツがわかってくる。どの芸人さんも、決して思いつきや瞬発力でやっているのではなく、何度も何度もプライベートや小さい劇場でトークを繰り返すことで面白い「形」を探し、その最終形をテレビで披露しているんですね。

このあたりの練習の仕方は、スポーツで自ら構築したトレーニング理論と、よく似たものだったかもしれません。自分の体を思うように動かすには、どうすればいいか。これさえできれば、スポーツでもほかの分野でも、パフォーマンスを上げることができる。そのための訓練は、陸上で培われていたんだな、と思います。