母が生きた時代の女性のあり方

秋吉 母は家庭内キャリアウーマンだったと思います。字も上手でした。身だしなみに気を遣っていて、朝、私が起きると母はすでに着物姿。眉がきれいに描かれていました。

下重 そういえば、うちの母もきちんとしていました。女性たるもの、素顔を夫にみせてはいけないとさえいわれた時代でした。

秋吉 女優になってから、仕事で私の付き人をしていた女性が、ボーイフレンドに「俺の目の前で着替えるな」っていわれたんですって。みっともないからって。

下重 なるほど……。

秋吉 それをたまたま隣で聞いていた母は、たった一言、「私も、お父さんの前で下着になったことはないわ」とつぶやいたんです。あの時に初めて気づきましたが、私も母の下着姿はみたことがありませんでした。そして、父がステテコ姿で過ごす姿も覚えがない。

下重 私とつれあいも家で下着姿では過ごさない。そういうしつけを受けてきたわけですね。

 

※本稿は、『母を葬る』(新潮社)の一部を再編集したものです。


母を葬る』(著:秋吉久美子、下重暁子/新潮社)

「母の母性が私を平凡から遠ざけ、母の信条を大胆に裏切る土台が出来上がってしまった」(秋吉)。
「30年以上、一度も母の夢を見たことがない」(下重)。

過剰とも思える愛情を注がれて育ったものの、理想の娘にはなれなかった……
看取ってから年月が過ぎても未だ「母を葬〈おく〉る」ことができないのはなぜなのか。

“家族”という名の呪縛に囚われたすべての人に贈る、女優・秋吉久美子と作家・下重暁子による特別対談。