写真◎新潮社
親を看取る時が訪れたら…どのように受け入れ、それから先の人生を歩んでいけばいいのでしょうか。年月が過ぎても「母を葬(おく)る」ことができないのはなぜか。女優・秋吉久美子さんと作家・下重暁子さんが“家族”について語り合った『母を葬る』より、一部抜粋してご紹介します。

理想の娘ではなかった

秋吉 父は亡くなる間際、自宅療養をしていました。往診にきてくれるドクターを迎えるたびにパジャマを着替えてワイシャツのボタンを留め、上下スーツ姿でネクタイまで締めていました。お医者さまに失礼になるから、といって。自分の家なのに……。

下重 昔の人って、そんなところがありましたね。

秋吉 仲良しではあったけれど、私は母にとって、理想の娘ではなかったと思っています。

下重 あら、突然。どうしてそんなふうに思うの?

秋吉 母は中学を出てすぐ看護学校に進みました。本当は上の学校に進みたかったけれど、11人もいるきょうだいの真ん中に生まれた家庭の事情で断念せざるをえなかったんです。ずいぶん時間が経ってから気づきましたけれど、自分が叶えられなかったことを私に求めていたところがあったと思います。