裁判所としても後見人の選任を慎重に
そういう使い込みが発覚したときに責任を問われるのは、使い込んだ後見人だけではありません。法定後見人を選んだ裁判所にも責任があります。
たとえば、認知症になった人の長男を後見人に選び、その長男が数年間にわたって何千万円もの使い込みをしたとしましょう。
本人が亡くなった後、遺産が思ったより少ないことに気づいた次男や長女などの相続人が、裁判を起こす可能性があります。
その場合、訴えられるのは後見人だけではありません。長男に損害賠償請求をしても、お金はもう使ってしまっているので、損害が回復されることはないでしょう。そこで原告側としては、長男を訴えるのに加えて、国家賠償請求訴訟を起こします。
使い込みをするような後見人を選んだのは国(裁判所)ですし、裁判所には後見人の報告を受けて財産の管理状況をチェックする注意義務があるので、何年間にもわたって使い込みを放置していたとなれば、責任を問われても仕方ありません。
そのような国家賠償請求訴訟で国側が負けることは、かつてはほとんどありませんでした。しかし近年は、国家賠償が認められることも少なくありません。
そうなると、裁判所としても後見人の選任を慎重にやらざるを得ないでしょう。その結果、今は弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれることが多くなりました。
専門家が使い込みをすることもありますが、親族による使い込みよりははるかに少ないので、国家賠償訴訟を避けたい裁判所としては、そちらのほうが「安全」なのです。
※本稿は『親が認知症になると「親の介護に親の財産が使えない」って本当ですか?』(大和出版)の一部を再編集したものです。
『親が認知症になると「親の介護に親の財産が使えない」って本当ですか?』(著:杉谷範子/大和出版)
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