気になるニュースや家族のモヤモヤ、日々の生活で感じたさまざまな思いや誰かに聞いてほしい出来事など、読者からの投稿を紹介するWEBオリジナル投稿欄「せきららカフェ」。今回ご紹介するのは、50代の方からの投稿です。お正月、食べたくなるお雑煮は――。
我が家の伝統
台所で鍋を磨いていたら視線を受け「お雑煮どぉする?」の声に、待ってましたと心が騒いだ。
結婚式は30年程前の12月。お爺ちゃんの急な葬儀やらのてんやわんやで、新年をどうしたか覚えていない。
そんな年明けの日に夫が「お雑煮食べようか」と言い出し、作り方を知らない私は深い溜息をついた。「家の味は塩なんだよね」と追加され、かなり悲惨な感情で夫を見たら、何やら思案している。
ピコッと閃いた私は秒で展開を読み、新米主婦の妙なプライドを捨て、要と云われる夫婦の主導権をあっさり明け渡した。雑煮担当が決まった瞬間だった。
出汁は鰹節。調味料は家にある何かと塩で仕上げたシンプルなもので具材は8種類。これが合わさり仄かな甘みを塩が引き締め、少しのとろみが柔らかさを増す。
デリケートな味を出す性格の繊細さは、重箱の隅をつつくような指示にも表れ、具材の大きさ、切り方にも及ぶ。大ような助手はカチンとくるが、ここは無に浸り、ただ刻む。
時に、「作るのは難しくないよ」と夫は言う。交代の合図かと惑うが、それは無理だろう。
「跡取りの貴方が作るからこそ我が家の伝統なのだよ」と、言えばさすがに大袈裟か。
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