いつの時代も仕事が障壁であり続ける理由
この約50年の間に、働き方や雇用をめぐる状況は大きく変わりました。交通網が発展し地域間の移動がしやすくなり、インターネットやパソコンの普及で業務は大幅にデジタル化し、2000年前後にはSOHOやノマドといった言葉が注目を集めるようになりました。
さらに、男女の雇用機会均等が目指され、女性の社会進出が進み、フリーランスの活躍も推進されてきました。
日本の働き方や雇用をめぐる状況は、技術的に大きく発展し、雇用形態も非正規雇用の増加や長時間労働問題はありながらも、多くの課題が改善されてきました。
しかし結局、地方移住の障壁はいつの時代も仕事であり、50年前よりも飛躍的に働き方の自由度が高まり、移住しやすくなったと思われるにもかかわらず、それでも半数が移住を妨げる要因として仕事関連を挙げているのです。
経済思想家のカール・マルクスやその思想を研究する人々の言葉を引くまでもなく、生産性の向上と資本の増殖を目指す資本主義においては、絶えざる技術革新は労働時間を減らさず、労働を楽にすることもなかなかありません(注6)。
また、いつの時代も大都市との比較で地方が評価されるため、都市的な価値観で判断すると、“希望する”仕事がないという状況が生じます。
これらが、いつの時代も仕事が地方移住の障壁であり続けてきた、そして現在進行系で障壁であり続けている理由でしょう。生成AIがいくら発達しても、急速にデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでも、「仕事」が地方移住の最大の障壁であり続けることは変わらない未来が予測できます。
換言すれば、だからこそ国や自治体、受入地域は、移住や定住促進を進めるためにテレワークやリモートワークが進んだ中であっても、地道にいかに雇用の場を生み出し確保し続けるかを考え、政策的に「仕事」の創出と支援をしていく必要があるのです。
仕事や働き方を選ばず、自由に働けたり起業できたりする人は、まだまだほんの一部です。この層を取り合うことは、過度な自治体間の移住者獲得競争の火種となってしまうのです。
注6: 白井聡『武器としての「資本論」』、2020、東洋経済新聞社.
※本稿は、『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(学芸出版社)の一部を再編集したものです。
『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(著:伊藤将人/学芸出版社)
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