奈良岡さんの信念を感じ取って
でも、名女優は暗黙のうちにその感性と熱情を受け止めていたのだろう。16年、劇団民藝公演『二人だけの芝居―クレアとフェリース―』(テネシー・ウィリアムズ作)の相手役に岡本さんを、と望む。
――ええ、それまでの5年間、さまざまな舞台をやり続けて、それで『二人だけの芝居』に至るわけですけど、俺のほとんどの舞台を観続けてる親友が、「演技の質がまったく変わったね」って言うの。これ、褒められたわけで、すべて奈良岡さんのおかげです。
そこで21年に奈良岡さんの生前最後の舞台になった『ラヴ・レターズ』。その頃、体調もあまりよくなかったんだけど、「ねぇ、『ラヴ・レターズ』またやらない? 私、あれならできると思う。それで終わりにするわ」って。
えっ、ちょっと待ってよ、やるけど引退はしないでよ、って言って、すぐ主催のPARCOに連絡して、近々で劇場の空いてる日を探していただき。ホン読みを始めたらかなりしんどそうだったんだけど、本番当日、舞台に出たら誰よりも凜としていて、最初の共演の時以上に作品に入り込んでいて、冒頭の少女から最期に至るまでの表現と声、存在感がものすごかった。
俺は俺で、今までの成長を見せたいと思うし、最後も泣きすぎずにしっかりとやりました。奈良岡さんを横で見て、もうこれは芝居とか演技とかを超越した、人間の生きざまというか思想というか、信念みたいなものを俺は感じ取りましたね。