健康な父に理解してもらえない私の体調不良
父が老人ホームに入居してから1年経った2024年10月。ホームの規則正しい生活のせいか、父は体調も頭の回転も好調で穏やかな日々を過ごしている。ホームの敷地内にあるデイサービスに行くのは週に2回。デイサービスでの入浴は、浴槽が大きいし、体を洗うときの補助もしてもらえて快適だという。
風邪気味でデイサービスを休んだ場合は、日をずらしてホームの建物内のお風呂に入れてもらっている。おかげで、父はいつも肌のコンディションも良い。会話の切り返しも早く、認知症の進行が止まっているように見える。
一方、私の体調は秋が深まり寒さが厳しくなるにつれ悪くなってきた。朝起きた時からどこかが痛く、父より肌の艶がない。加えて精神的に疲れることが重なると、嘔吐するようになってしまった。
前からセットされていた会食などの席を断れず、頑張って食べた時は、家に戻ってコートを脱いだ途端にトイレに駆け込む。嘔吐の恐怖で、好きな食べ物を口にしなくなっている。本当は好きな辛い味付けの物、揚げ物、コーヒーなどを普通に摂れるようになりたい。
原因不明の体調不良について、わざわざ人に言うことでもないし、父にも言っていなかった。心配をかけないように、時間に都合がつく限り、ポットにコーヒーを入れて、ホームの居室へ話し相手に行っている。
私がコーヒーを飲んでいないことに父が気付いたのは、雪が降り始めた11月中旬になってからだ。コーヒーカップを口に運びながら、突然私に言った。
「おまえもコーヒー好きだったのに、どうして飲まないんだ?」
「最近胃の調子が悪くて、コーヒーや脂っこいものが食べられないの……」
「そうか、かわいそうに」
労わってくれていると思いきや、父は私に訊ねる。
「胃が痛いって、どういう感じだ?」
「え?」っと、一瞬絶句してしまった。痛さをわからない人に、説明するのはすごく難しい。私は真剣にどう表現しようか考えた。
「パパ、間違って紙とかで指を切ったことはない?」
「あぁ、あるよ」
「その時指がヒリヒリして痛いよね。そういう痛みが胃にきている感じ」
「それは辛いな。俺は何を食べても痛くない」
「人が辛いと言っているのに、さりげなく頑健さをアピールするのですか!」と私は心の中で父に悪態をついた。体調不良の人に自分の健康を誇る無神経さは、昔から変わっていない。気にしていたら私はもっと胃が痛くなりそうだ。