せっかく守ってやったのに

私は負けず嫌いな上に口が達者だったので、そこらの子どもには口で負けなかった。
「デブでデカいくせに、小さい子をいじめるなんて情けないな」
「おまえのお母さんに、おまえが弱い者いじめしてたって言うぞ」
と脅した。実際は何が起こっていたのかはわからないけれど、怒りでカーッとなっているので、もうやっつけるしかなかった。私は体も大きく力も強かったので、たとえ向こうが手を出してきてケンカが暴力に発展しても大体勝った。

そして無事に相手を泣かせて終わると、なぜか私がその子をいじめたことになっており、私だけが母にこっぴどく怒られた。

せっかく守ってやったのに、弟は「お姉ちゃんが助けてくれた」などとは一言も言わず、私よりも多く与えられたオヤツをケロッとした顔で食べているので、死ぬほどムカついた。

いつもそうだった。母に可愛がられる弟に常に嫉妬をしていたけれど、彼がかわいそうな状態に置かれるとどうしても黙って見ていられず口や手を出してしまい、いつだって私1人が怒られるのだった。
「おまえなんかもう一生助けてやらんからな! ばーか!」
と毎回言い捨てていたが、弟はそんな私をニヤニヤと見てバカにしているようにも思えた。

今でもたまに弟に会う機会があるが、あのニヤニヤとバカにしたような目で私を見るところは変わらず、しかも、もう可愛くもなんともない中年親父になっているので腹が立ってしょうがない。

持っていたモノを奪われることへの不安、恐怖、寂しさ、自己愛、兄弟愛……嫉妬は、人間のいろんな感情と複雑に混ざりあっていて、単純に1つの感情として考えることのできないとても厄介なものなのかもしれない。