文学座に入ったばかりの頃の俳優・西岡徳馬さん(写真提供:『未完成』幻冬舎)

78歳、役者歴半世紀以上でも「まだ、足りねえ……!」喜びも悲しみも、演技こそが己の魂を呼び覚ますと語る、俳優・西岡徳馬さん。新境地を開いたつかこうへい演出の舞台『幕末純情伝』、一世風靡した『東京ラブストーリー』、そして2024年エミー賞最多部門賞受賞『SHOGUN 将軍』など、圧倒的な演技力と、作品に深みをもたらす存在感で幅広く活躍されています。そんな西岡さんが、文学座での初舞台からこれまでの俳優人生を振り返る、初の自伝本『未完成』より一部を抜粋して紹介します。

小学生で池部良、岡田茉莉子と共演

幼少時に楽しかった思い出といえば、映画好きの両親に連れて行かれた映画館だ。まぁ、映画を観るというより寝かしに連れて行かれたというほうが正しいかもしれない。

映画館に入ってサイダーでも飲ませておけば、暗くなりゃあ子供はすぐに寝てしまうからと、私と弟が日替わりで連れて行かれた。

桜木町駅から日ノ出町駅までの通りにはセントラル劇場、マッカーサー劇場という当時ならではの名前の映画館が並んで建っており、真っ白な建物の前には大きなシュロの木が植えてあって、子供ながら素敵だなあと思っていた。

両親とも洋画好きで、父は西部劇、活劇専門だったように思うが、私が覚えているのは、『キング・コング』と『ターザン』。

母はもっぱら現代劇が好きで、殊にゲイリー・クーパーの大ファンだった。母方の従姉妹といっても14歳も上のタマちゃんが、児童劇団で芝居をしたり、事務の手伝いをしたりしていて芝居の子役を探していた。そこで私に白羽の矢が立った。

「ちょっとノリちゃん、ここからここまで歩いてきて、『どうもありがとうございました』と言っておじぎをしてごらん」と言われてそうすると「うまい、うまい」と褒められ、挙句の果てにはおだてに乗って「東宝児童劇団」というところに入れられたのが役者人生の始まりだ。