三日目にしてようやく私の出番が来た

蜷川さんのダメ出しは、言わんとすることが分からなくもない。それにしても、初めましての初日から「馬鹿野郎」はないだろう。

かなり暴力的な人だなぁと思った。「なんだ、この演出家は」という顔をして、みんな驚いている。東宝の先輩たちの目はどんどん血走ってくるし、戦々兢々だ。

とても芝居の稽古場とは思えず、ついに初日の稽古は1ページも進まなかった。私と三木さんは顔を見合わせて「ヤバいな」と目配せしあったが、丁度我々の出番の寸前で初日の稽古は終わった。さて、翌日は台詞を全部入れておかないといけない。

けれど幸いにして、その台本は2年前にアトリエ公演でやった『ロミオとジュリエット』の台本と同じ小田島雄志さんの訳だったので、私は親友のベンヴォーリオの台詞も、大方頭に入っていたのだ。それが幸いした。

二日目に、前日の稽古を見ていて「私には出来ません」と、白旗を揚げた俳優たちが数人出た。東宝演劇部としては異例のことだった。

稽古三日目にしてようやく私の出番が来た。初めて染五郎さんと二人で会話を交わす場面だ。

それまで、「馬鹿ー、豚ー、死んじまえー」と怒号が飛び交っていたが、私と染五郎さんのシーンが終わると蜷川さんは、「よーし出来た。ほら見ろ。梨園と文学座の俳優がやればここまで出来るんだよ」と、満座の前で私たちを褒めた。

私はビックリしたし、照れくさくて、穴があったら入りたい気分だった。それが蜷川さんとの出会いだった。