もう一人の天才、つかこうへい
もう一人の天才は、稀代の現代版戯作者(げさくしゃ)、つかこうへい。1973年暮れ、アトリエ公演のつかこうへい作『熱海殺人事件』を観た。
凄い衝撃だった、と言いたいところだが、実はそれほどのインパクトは感じなかった。何か、もう一つエネルギーを出す方向が違うように感じたからだ。
「それ」が何かこの時には分からなかったが、「それ」は追々分かるようになる。この公演で彼は岸田國士戯曲賞を最年少で受賞した。
そして1年後の1974年暮れにアトリエ公演で、つかこうへい作品をやることになった。タイトルは『戦争で死ねなかったお父さんのために』。
舞台は1974年。太平洋戦争が終わって29年も経っているのに、今頃になって郵便配達員が、渡さなかった召集令状を渡しに来る、というシチュエーションから始まる群像劇だ。
アトリエ公演だから、演出はもちろん文学座の少し先輩の演出家だ。私の役は、高原駿雄(たかはらとしお)さん演じるお父さんの息子と、日の丸中尉の二役だった。
稽古は終盤に入っても、演出家はじめ俳優たちも、既存の芝居と違い、斬新というか、飛びぬけて面白すぎる脚本に、解釈もてこずり、表現方法にも苦しんでいた。