彼が来てからの稽古は面白かった
もう明日は舞台稽古、明後日は初日という切羽詰まった日だった。「お待たせしました。ちょっと、近所まで来たもので」とでもいうかのように一人の男がふらーと稽古場に入ってきて、演出の長崎紀昭さんの横に座って芝居を観ている。
その内、先輩の小林勝也さんや三宅康夫さんらに、ああしろ、こうしろと注文を出し始めた。脚本にない台詞までどんどん付け足すではないか。
彼を誰だか知らなかった私は不審に思い、後輩の田村勝彦に、「誰だ、あいつ」と聞くと、田村は、「トクミさん知らないの?つかさんだよ」と、半ば呆れ顔で言われた。
あれが噂の「つかこうへい」か、とその時初めて知った。その後、演出助手に促されて紹介されたが、彼は、「つかと申します」の一言だった。私も、「西岡です」とだけ言った。
つかは、実は稽古初日に来ていたようなのだが、私はその日別の仕事があり、いなかったのだ。なので、私だけ知らなかった。だがその後、あんなに仲良しになるとは。
しかし、彼が来てからの稽古は面白かった。今までの3週間は何だったのかと呆れるほどだった。もう少し前に呼んでおけよと思ってスタッフに言うと、随分前からお願いしてたんです、と言う。
前日まで、「なんでここでこんなことを言うんだろう?なんであんな台詞を言うのだろう?」と悩んだことがうそのように明白に解けていった。