78歳、役者歴半世紀以上でも「まだ、足りねえ……!」喜びも悲しみも、演技こそが己の魂を呼び覚ますと語る、俳優・西岡徳馬さん。新境地を開いたつかこうへい演出の舞台『幕末純情伝』、一世風靡した『東京ラブストーリー』、そして2024年エミー賞最多部門賞受賞『SHOGUN 将軍』など、圧倒的な演技力と、作品に深みをもたらす存在感で幅広く活躍されています。そんな西岡さんが、文学座での初舞台からこれまでの俳優人生を振り返る、初の自伝本『未完成』より一部を抜粋して紹介します。
運命的な出会い「蜷川幸雄」と「つかこうへい」
1974年、二人の大演出家との運命的な出会いがあった。一人は、かの蜷川幸雄氏。
東宝が5月に日生劇場で市川染五郎(現・2代目 松本白鸚)主演、蜷川幸雄演出の『ロミオとジュリエット』をやる。
ついては私に、ロミオの親友ベンヴォーリオの役をやらないかと依頼が来た。憧れの日生劇場でシェイクスピアが出来る。
しかも演出が蜷川幸雄さんというアングラの鬼才だ。主演は歌舞伎界、梨園の御曹司・市川染五郎。私はもちろん喜んでお受けした。
この『ロミオとジュリエット』が蜷川幸雄さんの商業演劇界、伝説のデビュー作だ。蜷川さんのことは映画やテレビで見て顔は知っていた。
芝居は観たことがなかったが、かなり過激な演出をするという噂は聞いていた。稽古初日、出演者やスタッフの紹介もそこそこに、すぐ立稽古を始めるという。
何しろ出演者だけでも100人近くはいたと思う。だから稽古場も椅子など置くスペースもない。
椅子に座っているのは染五郎さん、中野良子さん、金子信雄さんら数人で、蜷川さんはじめ他のみんなは床に体育座りだ。
主な役どころは東宝演劇部から集めていた。文学座からは私と三木敏彦さんだけで、あとは色々なところからの寄せ集めだった。