本当はものづくりが好きだったことを思い出して、革職人に

私たち女性は、女性だという理由だけでチャンスを得られなかったり、「家事・育児は女性がすべきだ」といったアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)に悩まされたりしてきましたが、実は男性も同様に「男らしさ」に苦しめられることがあります。

外資系化学メーカーの日本法人で日本人トップを務めたKさんは、ずっと「男として強くあらねばならない」という強迫観念のようなものを持っていました。子どものころから、「男らしくあれ」という教育を受け、何事も正面から立ち向かい、結果を出すことを叩き込まれてきたのです。

その結果として会社員として大きな成功を収めてきましたが、仕事である「化学」を好きだと思ったことは一度もなく、仕事とは乗り越えるべき壁であり、いつもストレスをかかえ、健康診断の結果もボロボロだったといいます。

40代半ばになってこのままでは自分がもたないと思い、仕事100%の人生から抜け出そう、自分が好きだったことは何だろうと考え、思い浮かんだのがプラモデル作りでした。夢中になってプラモデルをつくっていると楽しかったけれど、両親から「男の子なんだから家の中にいないで外で遊んできなさい」と言われ続けてきたことを思い出したのです。

何かものづくりをしてみよう。Kさんは、DIYショップで半日コースの革細工講座を見つけて試しに行ってみます。そこでスタッフから腕を褒められ、高額なプロ用の道具を買ってしまいます。

うまく乗せられてしまったのかもしれませんが、買ったからには無駄にはできないと続けていくうちに病みつきになり、ついに自分のブランドを立ち上げるまでになりました。