流通に値しない不動産は日本の社会問題に
「賃貸ではいつまでも管理責任は残るし、家だけを売却しても仕方ないので、売却の条件は、山や農地や納屋も蔵もすべてまとめて名義変更することにしました。
その代わり、金額はお任せ」別棟を撤去する費用、家の中の遺品を整理する費用と相殺できればいいということで不動産屋さんと交渉したところ、引き受けてもらえたという。
「妹がお墓だけは残そうというので、裏山の墓地だけは残すことにしました。石塔だけで5基も建っている墓地をどこかに移しても意味がない。100年も経てば、元の山に戻るんじゃないのという妹の意見に負けました(笑)」
まずは骨董屋を呼び、ぼろぼろの掛け軸や昭和初期の調度品、着物、花瓶、座卓などを引き取ってもらった。
売上総額は50万円。一切合切の売却額は300万円。あとの荷物を廃棄する費用が200万円。いまにも倒れそうな納屋の撤去に100万円。半年掛かりの実家売却プロジェクトで手元に50万円が残った。
「火事場の馬鹿力というか、怒りにまかせてえいやっと動かないと、実家の始末はできないものですね。だれからも見離された実家は哀れだとも思いますが、私にとっては心のくびきがとれたような爽快な気分。究極の断捨離ですね」
継承者のいない空き家、耕作者のいない農地、地主不明の荒れる山林……。流通に値しない不動産は人口が減少する日本の社会問題だ。
面倒なことは後回しにしているうちに寿命が尽きるケースもありそうだ。